或る効果
キヲク

懐かしさに気絶しそう。


記憶の地層深くや、遺伝子の螺旋の隅に、

かすかな香りを残しているくらいの。

意識が感じるものではなくて、

感覚の針先が僅かに振動するくらいの。


それが地表に溢れ出た刹那、

私という意識体系は真ん中から風に攫われて、戻れなくなる処まで。

さらさらと吹かれて行ってしまいそう。


強烈に喚起された、切れ端すら掴めないイメージ。

ずっとずっと遠い、いつか。

私はそれを、しっかりと掴んでいたんだろうか。

右手で。

左手で。

確かに触れていたんだろうか。

両手、両腕。

或いは、胸先で。


今はただ、久遠にたゆたうその残り香を、

ふっと懐抱するだけで。